神の手日本五月晴れ

 5月1日 令和改元

 平成30年が令和元年となった。天皇陛下は上皇となり皇居を出る。葉山のご用邸で余生を過ごされればいいのにと町民は思った。それには日常の警備が厳重になり町はいよいよ安全になるという思惑もある。
 即位の礼は10月に行われる、諸事万端の準備に半年かかるということだ。昔、戦乱の時代に衰微していた朝廷にはこの儀式を行う余裕がない、それでずいぶん惨めな思いをされた歴代天皇もおられたそうだ。
 皇太子は秋篠宮、それでマスコミはまた騒いだ。上の娘さんが勝手に結婚相手を選び、フィアンセと名乗ったので彼に対する中傷が母親にまで及び、週刊誌が面白おかしく記事を作ったのだ。両親も妹さんも巻き込まれてずいぶん嫌な思いをされたことだろう。普通の家庭ではよくある話で、訳知りの叔母さんとか父親の飲み仲間とかが間に入ってめでたしめでたしとなるのだが、皇室となると安直にはいかないようだ。
 
 燕柳まくら
 五月になりますと自然と空が五月晴れになる、ふと気がついてみるとそうなっているんですね、季節が移り変わるというのは不思議なものです。
  江戸っ子は五月の鯉の吹流し 
 江戸っ子というのは何のこだわりもない、心の中は青空のようなもんだって大変に誉めてるようですが、このあとが悪い
  口先ばかりはらわたはなし 
ってんで、向こう気ばっかり強くて知恵も度胸もお金もなんにもない、まあ、そんなとこが江戸っ子のご愛嬌かもしれません
 ずいぶん早い日からこいのぼりをあげている家があります。鯉のやつは弥生の薄ぼんやりした花曇りの中を泳がないとならない、こいつはあまり張り合いがありません。
○なんでぇ威勢の悪い空じゃねぇか
●兄弟、やめだやめだ、冗談じゃねえや、おれっち出世魚だ、こんな水溜 
 りで泳げるけぇ
 なんて竿にぶらさがっちまってイビキかいたりしてる。
○おい5月になったよ五月晴れだよ
●合点承知 
 なんて威勢よく泳ぎだしたりする、鯉だってやる気を出させるには舞台を選びます。
 世界中で日本だけだそうですね、布で魚をつくって棒の先につけてヒラヒラさせている国は、英語でいうとカイトつまり凧というのだそうです。さすが日本人は魚好きだ、あれも焼いて食うのかなんて思われちゃって、ノーノーあれサケじゃなくてクジラじゃなくて鯉、パーク、広島パーク。
○日本人はァ子ォどもがァ元気にィ育ち出世ォするようにパークを飾りィ  
 ます。
▲WHY、なんでェパークなんですかァ。
○それはァ、パークはァ滝にのぼってェドラゴンになるからでェす。
▲えっドラゴンとパーク、あまり強い組み合わせではありませんね。
 中日ドラゴンズ、広島パークのことだったりします。ファンの方、怒ら ないでくださいね、外人さんが言っているんですから。
 
「かつては自虐史観なんて言って日本ダメじゃんと教科書にまで悪く書かれたものだが、近頃は世界で一番になったらしいね」
 中路は斜に構えている。
「日本人の文化、風習、品格が評価されるのはいいことです。実際それだけのことが日本にはあるのですから」
 野瀬ボンは世界に詳しい。
「でもカワイイというのはどうかな、アニメ、ゲームはともかくメイド喫茶まで世界に誇るのかい」
 JW藤野はかなりのロリコンだが健全な社会人ぶって習癖を表に出さない。
「世界中の若い人たちは好みを共有するの、親世代も不快という好みを共有するのよ」
 林姫は一理屈ある。
「遠い世界の外国人がどうしてマニアになるのじゃ、商売人が売り歩くのか」
 春本行者の頭はまだ二十世紀以前だ。
「インターネット、ライン、SNS、ツィッターその他で瞬時に拡散するのです」
 野瀬ボンは自分自身が享受者、発信者だ。
「世の中、子ども大人と大人子どもばかりだからな。困ったことだ」
 RR池田はどうでもいいようにつぶやいたが、その姿勢こそ責任回避なのに気がつかないようだ。
「アニメに描かれた仮想社会を現実にしようと機械工学は進歩していきます。ロボットがその最先端です」
 メカ吉川にあるのは事実だけで、その善悪は自己判断しない。中路が少しいらだった。
「問題の基調を説明しよう。東京ファーストと都知事は言う、これはアメリカ第一という大統領と同じ発想だ。世界に冠たるアメリカは軍事・経済による覇権維持、日本に冠たる巨大都市東京はアニメを先鋒として軽カルチュアによる世界制覇、すべて誇らしさをうたい不満を抑え込む政略だ。中国しかりです」
「それと皇室となんの関係があるんだ」
 RR池田は直裁だ。
「ご即位をうらやましがっている国が多い。革命をやった国、なしくずしに建国して伝統と権威を持たない国、国内の少数民族問題を抱えている国、その他だ。マスコミが日本はすばらしい日本ファーストだと唱えれば踊りだす大衆がいる。富国強兵、八紘一宇みんなそうだった。皇室を政治利用されないように警戒しましょう」
 中路の自説にJW藤野はすぐに同調する。
「憲法九条とも共振するな。とりあえずは昭和天皇の強い戒めが顕在しているし平成天皇も美智子皇后もすばらしい人格者だった。令和天皇と雅子皇后も信頼できる」
「もしどこかの国が攻めてきたら迎え撃つ命令は誰が出すのだ、天皇か」
 RR池田の発言に林姫が呆れた。
「馬鹿なこと言わないでよ、総理大臣よ」 
「それで自衛隊出動か」
「専守防衛です」
 野瀬ボンが釘をさす。メカ吉川も共に隊列を組む。
「機械工学で戦争はできるが最後は白兵戦になる、アフガンもイラクもそうでした」
「つまり日本が負けるということもあるのじゃな、それは困る」
 春本行者にも守りたいものがあるようだ。
 林姫はもちろん戦争反対だ。
「だから戦争が起こらないように予防するの。しかし、この頃の日本は強気になっています。裏づけのない強気も困りものね」
 すぐにRR池田が鼻を鳴らす。
「日本の軍事予算は世界6位だ、それが裏づけにならのかい」
「それは戦争をする裏づけでしょ。国を守るのは戦争ではないわ、愛国心で戦争が駆り立てられた歴史は経験ずみよ」
 もちろん春本行者は異議ありだ。
「国を愛する、当然じゃないか。日本の代わりにアメリカを愛したりケニアを愛したりして移住する人がおるが、年取れば帰ってくる。それは日本がすばらしいからだ」
 春本行者は愛国と国粋の区別ができない。
「日本のどこを愛するの」
 林姫がすぐに攻撃する。
「山川草木、誰か故郷を想わざる」
「では自然と環境を破壊する者は愛国者とは言えないのね。秀山を崩し、白砂青松・珊瑚礁を埋め立て、空気を汚染し、気候を温暖化する、それに手を貸す人と容認する人、みんな非国民ね」
 林姫の追及に春本行者はたじたじになる。
「日本を愛する、日本人を愛するんだ」
「日本人ってなに」
「誠実、真摯、謙虚、勤勉、慈愛……」
「あなたはそんな日本人なの」
「それは理想としてだ、磨き抜かれた日本の文化を愛する、これではどうだ」
「今ね世界が感動している日本文化はマンガ、アニメ、ゲーム、フィギュア、オタク、ファッション、カワイイ文化よ、あなたは感動しているのかしら。日本の伝統文化だって言うけど、あなたは能・歌舞伎・文楽・神楽、見たことあるの、ファンなの」
「…」
「さあ、あなたにとって日本とはなに」
 春本行者がギブアップ寸前になってようやく燕柳兄さんが割って入った。
「食う寝るところに住むところパイポ」
 軽くいなされて林姫が苦笑いした。
「日本人には日本が一番でげす」
 それくらいでは林姫はおさまらない、野瀬ボンがなだめに入った。
「都民ファーストってぶちあげて当選した知事がいましたが他県の人は大ひんしゅく。日本の首相がアメリカで日本ファーストとなぜ言わぬ、言えるはずがないです、相手はピストルを持っていますから」
 野瀬ボンは世界の民意には詳しい。
「ポピュリズムと言います、大衆を迎合させるように過激な言動で、しかし、エスカレートしてしまうとにっちもさっちもいかなくなり無茶苦茶をするような」
 JW藤野はそのあとの人名を飲み込む分別があるがRR池田にはそれがない。
「トランプはひでぇやつだ」
「国民の過半数が支持しているのよ」
「ひでぇ国民だ」
「そういって戦争が始まったの、心しなさい、いつだって始まるのよ、許せないって言って、やっつけてやるって言って」
 林姫は明快だ。
「一昔前の旅行者は旅先でいつも日本が一番だと言いました、恥ずかしかったな。フォークより箸がいい、洋式便所なんか使えない、ベットでは寝られない、日本に帰りたいってアホみたいでした。そのくせ日本に帰るとパリはどうのロンドンはどうのと礼賛ばかり、アホみたいでした」
 野瀬ボンも職業人だった。
「日本人も50年でこれほど変わったのね。中国人もアフリカ人も変わるわ。それで日本人はこの先どう変わるの」
 RR池田も頑強だ。
「その基本が愛国心だろうが」
「中国共産党も愛国心と叫んでいます、しかし愛党心とのスタンスが微妙ね、日本の学校でも愛国心と二宮金次郎が一緒に出てきたりする。愛国者のモデルがないのね」
「二宮金次郎で何が悪いか」
 春本行者が珍しく怒った。JW藤野がけんかを買ってでる。
「藩の借金を解消するために新田開発もしたが、メインは農民に高利貸をして利子を取った財政家だよ。明治になって心酔者が修身の教科書に逸話を入れたんだ。それで国民的有名人になったが、偉人は他に沢山いるよ」
「薪をかついで本を読んだんだ」
 春本行者は小学校で勉強したことを大事にしているようだ。
「明治の頃は皆が貧しいから共感は深かったのさ。末は博士か大臣か、富国強兵にがんばったのさ、今も頑張っている国はたくさんあるよ、ベトナム、バングラディシュ」
 一瞬の沈黙をとらえて能勢ボンが立ち上がりコピーを配った。
「詩を読んでください。森戸海岸の情景です」
五月に
青冷めた肌  若葉のもとに
少女も少年も 剥(む)きだされた肌を 
白く硬く 影さえ持たず
深夜のように深海のように 
冥(くろ)い空を仰いで じっと座している


「俺にはさっぱり分からん」
 RR池田は当然言う。
「君の詩は言葉をもてあそんでいるだけね」
 林姫は簡潔だ。
「若葉を直視するから紫外線にやられて、空は黒く肌は青白く見えるのです。ただ、ちょっとエロチックで萩原朔太郎を思わせます」
 JW藤野は芸術家のパトロンを自認している。
「深海も深夜も真っ黒。若葉は新緑、白い肌では彩りがよくありませんね。アクセントに赤とか黄色を入れたらどうですか。近頃は本社ビルも高齢者施設も見栄えが大事になってきて、かなりの費用をかけていますよ」
 メカ吉川は建築プロジェクトにも参加していたらしい。
「これはお経よりも難解だ、意味もわからずとなえているだけじゃろう」
 春本行者に断定されて能勢ボンはがっくり頭を落とした。
 
「いきつくところは教育だな」
 中路がさっさと話題を変えた。
「つまり親の期待感が変化したんだよ。子の人格を認めて子に寄り添うという姿勢に親が変わってきた。がむしゃらに勉強させる教育パパ・ママがいなくなった」
 中路はずっと教育で飯を食ってきた人だ。
「子どもを過保護にすると自立できなくなると昔の教育評論家は言っていました、でもそれは間違いでした」
 林姫は教育を外から見る専門家だ。
「だから専門家などというヤツの意見をまともに聞いてはいけないのさ。過保護をしたら子どもはうざっこくなってさっさと独り立ちする、愛情不足で物足りない子どもたちはいつまでも親にへばりついている、そんなことも分らんで専門家を名乗るのか」
 RR池田はいつも自分が人々の代表になりたがるのだ。
「そうなの、それを子どもの愛情と誤解して子離れできない親が多いの、406080問題と関連するわ」
 林姫は今度はJW藤野を対戦相手にする。
「母親と長男、父親と末娘だな」
「祖父祖母と孫の関係もよ、優等生ほど危ないの。あなた優等生だったでしょ。いつもクラス最上位にいたわ」
「何をおっしゃる、君には負けていました」
 林姫もJW藤野もかつて中学校では輝く存在だったのだ。
「優等生には枠組みから飛び出す度胸がない、やぶれかぶれにならんからな」
「優等生の役割に殉じるんです、それはかわいそうなことです」
「なにより教育システムが利便的だったよ。優秀な奴、上澄みを順にくみ上げていき役所・大企業から順に分配する、それを効率的にするために進学先の高校を中学校の成績順にする。まさに子どもを格差に当てはめ人権を傷つける最低のシステムだ。かつては士農工商が今は十段階評定になっている」
 林姫もJW藤野も雄弁だ。聞いている者はうんざりする。
「優等生とはなんだ、試験ができるだけか」
 RR池田の問いには中路が答える。
「先生に適応できること。先生が教えたことをくだらないと思っても適切に対応する、だから先生が変わっても成績はよい」 
「では優等生は先生より賢いのか」
「当然」
「反抗しないのか」
「学校という枠組みの中では意味がないから、それに学校はほんの短い間で終わる」
 雄弁な林姫が再登場。
「そして官僚や大会社の一員になって、記憶力と統計・分析・総合化で実績をつくり、要点をおさえ上司を忖度(そんたく)しながらキャリアを重ねていく。医者もそうよ、大病院で出世したければ組織の全員に忖度するのよ」
 こう話が固くなると燕柳兄さんは辛抱できない。
「忖度、流行語になりましたな。苦労をすれば贈り物をもらえる、ソンタクロースと言いましてな」
「兄さん、つまらない」
 林姫の容赦ない一言で燕柳の天狗の鼻はポキリと折れる。
「そうだ、社会に出ると役にたたないものは優等生だというぞ」
 RR池田にメカ吉川が応じた。
「会社はたくさんの歯車でできています、そして家庭に帰ればまた歯車があります、きしんだら油を差してメンテナンスをする、会社も家庭もそれで安全に回ります」
「つまり優等生も劣等生もないってことか」
「優等生を作りたいのは学校の先生だけです。歯車を安全に回すためです」
 燕柳兄さんが自己弁護したくなる。
「すると私なんかは小さな役立たずの歯車でキシキシいって隅っこで回っていただけでげすな。先生にあんなに反抗しなければよかったな」
 燕柳兄さんの述懐に林姫はホロリとした。
「兄さんはワルガキだったの」
「ヘッヘ、昔も今もヨイガキは噺家なんぞになりやせん、勘当者の行く末でござんすよ。世を甲斐なきものと思いて噺家に」
「とんだ業平(なりひら)ね」
 少し話がチンプンカンになる。
「皆に分かる話をしてくれ、業平とは何だ」
「兄さんは色男宣言したのよ」
「その道の優等生、それが人生を明るく送る秘訣でげすよ、伊勢物語など知らんでもいい、知っていればなお良いという」
「私たちは同世代、団塊よ、兄さんもそうだったのね」
 JW藤野も感慨深いようだ。
「思えば団塊世代は戦後の極貧から高度成長の富豪になり、いまはデフレで平凡に甘んじているという物語の主人公だな」
 RR池田が異議を申し立てた。
「まてまて、誰が俺を団塊の世代と決めたのだ、同年齢ではあるが団でも塊でもないぞ」
「堺屋太一よ、あっというまに流行したわ」
「団子で岩塊だろ、今の若い者たちが面倒くさく思うわけだよ」
「団欒(だんらん)と金塊ならよろしうござんしょう」
 燕柳兄さんは団塊といわれて気をよくしたようだ。
「私が退職した後の今でも会社には辞めない年寄りがゴロゴロしています、ろくに仕事もせずに、これは腹が立つ。さっさと辞めて後進に椅子を譲れと、ところが政府は年金を払いたくないから定年を延ばすといいます。これは政府に腹を立ててほしいことです」
 メカ吉川が珍しく語気を強めた。
「まてまて、わしも団塊の仲間でないぞ。ずっと一匹狼でやってきたのだ」
「俺だって高校出て、ずっと八百屋をやってきた。団塊などと言われたくない」
 春本行者とRR池田は疎外意識が強い。
「そうねホワイトカラー、大学紛争崩れ、ニューファミリー、頭文字はWDN、それが団塊っぽいわね」
「すし詰め教室、受験競争、猛烈社員、つまりSJMだ、二十四時間働けますかというコマーシャルがあったよね」
 林姫とJW藤野は生粋の団塊だ。中路はちょっとだけ距離をおきたいようだ。
「学校と社会で集団でおしくらまんじゅうをしながらワサワサと育った世代だよ。それが個を大切にする教育、個々の学習を成立させる指導方法などとご託宣だ。自分たちの世代が判断基準なのさ。今は少子化と一人っ子だから集団の中で連帯し共鳴しあって育つことが欠けているんだ、逆だね、教育者というのは時勢に疎い」
 RR池田がじれた。
「つまりこの中で団塊は誰だ、手を上げろ」
 JW藤野がさっと手を挙げ、遅れてメカ吉川、林姫。野瀬ボンは迷っている。
「僕はドロップアウト組だから」
「気分の問題よ、団塊と言われて気分が良いの、それとも嫌なの」
「…良い…」
 林姫に迫られて同意する、長いものには巻かれるのも団塊の特色だ。
「なるほど団塊と言われて誇らしいヤツもいるんだな」
 JW藤野がニヤニヤ笑っている。
「僕らより年上は団塊に感謝している、自分たちが企画した高度成長の兵士たちだ。孫世代も爺婆かっこいいと見てくれている。さあ誇りを持って自己主張しよう」
 
「時間だよ」
 マスター田辺が顔を出した。他に客がいるわけでもないのに几帳面だ。早く店を閉めてテレビが見たいのかもしれない。
「燕柳さん、頼んだよ」

 燕柳裾(すそ)まくら
「終わりにもまくらを話せ足まくらだというご注文をいただきましたが、何事も足がつくといけません、足が出て赤字、足が早くて食中毒、悪事に足がつく、されば裾(すそ)とした方が粋かなと思い、裾まくらにいたしました」
 5月人形というのが様変わりしております。昔は鐘鬼様、ヒゲだらけの怖いオジさんが邪を払うといって飾ったものですが、今はそんなのは流行りません。金太郎とか桃太郎とかみんな可愛い顔ばかりです。つまり、かわいいというのが一番の値打ちなんで「お爺ちゃん、かわいい」なんて女の子に言われてエヘラエヘラしているジジイが増えてまいりました。
 なにしろ少子化で、その上、高齢化ですから、一人の孫にお祖父さんお祖母さんが4人いる。その曽祖父と曽祖母が8人いる。すると、トータル、さりげなく英語がでましたがスーパーのレジじゃなくても使っていいんですよ、トータル6軒分の爺婆が赤ん坊可愛さに人形を届けるという寸法になります。
 ところが年寄りというのは人に相談しない、自分がいいと思うことしか頭にない、6軒が気がそろわなければいいんです、色々違う人形が並びますからね、しかし気がそろったら大変です、6人の桃太郎、6頭の犬、6匹の猿、6羽のキジ、ずらっと並びましてな、赤ん坊は6組の桃太郎軍団に取り囲まれて夜泣きが絶えません。
 桃太郎さん桃太郎さん
 はいはいはいはいはいはい
 犬が6頭いるとすぐ喧嘩を始めましてね
    わんわんわんわんわんわん
 猿なんかいたずらのし放題で
  きゃっきゃきゃっきゃきゃっきゃきゃっきゃきゃっきゃきゃっきゃ 
  数、合っていますかね、指で数えてたんですが
 きじなんか飛び回って目まぐるしい
   ケンケンケンケンケンケンケンケンケンケンケンケンケンケンケンケンケンケンケンケケンケンケンケンン
 皆さんは数えなくてもいいんですよ、
 大騒ぎでげす。
 入れ替わり立ち代りに爺婆が赤ん坊を見に来る、皆、言うんです「かわいいね、私の若いころにそっくりだ」お母さんにしてみればこんな恐ろしい言葉はない、かわいい赤ん坊がジジババヒイジジヒイババにそっくりだと言われる、こんな思いやりのない言葉はない、まあ、初節句の祝いなどというものは、人形は小さくてもいいですから、あの、あまり可愛くないおじさんの絵がかいてある紙、紙幣といいます、あれだけをたっぷり用意するのが喜ばれるようです。

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