首相が辞任した。前首相を後継した時に失策に感染していたのだね。挨拶の中でコロナ対策に専念したいと言ったが、責任者がやめたのでは対策などできっこない、国民は冷笑した。事実、以後の前首相は何もしなかった。しかし、皮肉なことに五輪を無観客にした後はみるみる感染者が減っていった。
幸い軍部と軍人という勢力が日本には途絶えているが、世界中には大層はびこっていて大変だ。プロだから人を殺すことには慣れているんだから。しかし軍人でなくても血なまぐさい仕事は日本にも色々あるよ。
病院には必ず医学博士の免状が誇らしく飾ってある、それが義務なのかな。私は専門の学問とインターンをしました、実習でホルマリン漬けの死体をメスで切り刻みました。だから患者の皆さん、安心して私に身を委ねてください。そんなアピールなのだ。
大病院で採血室に行くように言われた、奥の方だ、窓口の女性は落ち着いている。小さなブースの中で毎日百人二百人の血を抜き取っている人だ。鮮血の色が目に焼きつくだろうがそれが仕事だから仕方ない。食肉工場に勤めている若い友人がいる。毎日何十頭もの生き物を屠っている、これも仕事だから仕方ない。血だらけの仕事着を脱いでさっぱりした服に着替えればただの好青年さ。
「心をこめて血をぬきとろう」
「相手の気持ちになって屠殺しよう」
そんな標語は掲げられていないよ。ただ目の奥にルビー色の輝きがあるかもしれないけどさ。
毎日があまり明るくないからそんなことを思うのだよ。棺おけに閉じこもって寝るドラキュラのようにコロナの毎晩は暗い夢をもたらすのさ。
山道は枯葉が舞っているだろう。草も木も生気を失い冬の季節を受け止めようとしている。豊かに実った柿の実だけが生き物たちに恵みを与えている。分け入っても分け入っても青い山…の季節は終わった。山も川も大気も不幸な旅人を抱いてはくれない。木にも生命が脈打っているって不思議な感覚だね。切り倒された木は命を失うんだけれどさ。
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