通常通りの始業式、2部制にした学校や夏休みを延ばした学校など対応はばらばらだが、それでこそ市町村の教育委員会だ、これでお飾り扱いを脱皮できるかな。
若い会話が聞こえてきた。信号待ちの短い時間だ。
「男の子がほしいな」
「女の子がかわいいよ」
とたんにザワザワと風が吹いた。モノが聞き耳を立てているのだ。
「赤ちゃんできたら可愛いね」
「生まれたら大事に育てるよ」
ヨミガエリを願っているモノは聞き逃さない。すばやくカップルについていこうとした、嘆息して止めようとしたモノが言う。行為が生産に結びつくのはラッキーだが単に娯楽や義務だけで終わることも多いんだよ。憑いていく前にリスクを想定しておいた方がいいよ。生命をいただくための儀式には歓喜が欠かせない、不満や嫌悪を残したら生まれた子どもは笑わなくなるよ。なによりも町角でそんな会話をするくらい軽薄な二人だからよした方がいいよ。忠告を聞いてモノが憑いていったかは分らない。
睦言、二人だけの秘めた会話というのは道路脇でしてはいけないよ。よみがえりを願っているモノはたくさんいるんだよ。その上、ここは寺に続く道、赤い風車が音立てて回っているだろう。望まれもせず愛されることもなくて命を失ったモノの無念は大きいよ。チャンスと思えば飛び移る、しかし時間制限がある、卵子にたどりつかなかった精子はすべて消失するのだから。
二人は信号を渡っていった、おや手をつないだよ、冷たい手かな、温かい手かな、どちらを感じたのか分からない。
唐突に秋がきた感じがする、今度は秋雨前線の予報さ、1週間は雨続き。たちまちセミの声が遠ざかりコオロギがとってかわった。妙な気候だが夏の虫たちは無事に産卵したかな。今年は蚊の少ない夏だった。酷暑でボウフラは育たず豪雨で親も子も流されてしまったらしい。虫にとっても異常気象は種の継続の問題だね。
次へ