五輪が終わった。開会式も閉会式もはなはだ評判が悪い。エンブレム盗作から会長の男女差別発言、過去にいじめっ子だった作曲者の辞任、おまけに豪雨と酷暑だ、呪われた五輪だったよ。誰が呪文をかけたのか、まさか競り負けたイスタンブールではないよね、今頃はああよかったと胸をなで下ろしているかもしれない、しかしあちらもテロ多発で大変そうだよ。
門からでてきたのはオオカミ顔の老人だ、立ち止まって道をゆずったのに一瞥もせず行ってしまった。笑うことなどもっての外という職業、昔なら軍人か金貸しだろう。つい表札を見返したが東條とか阿南とか岩崎とかの怖い名前ではなかったよ。
オオカミが絶滅してからまだ100年、この郷から消えうせたのはいつ頃だろう。慰霊祭があってもいいな、オオカミなきあとイノシシとシカがこんなに繁殖して害をなしているのだから。キツネとカワウソも明治のころはまだ人を化かして元気だったのが消え失せてしまった、相棒のタヌキだけは生き残って車にはねられたりしている。この郷の別荘族も生き残れなかった、広い屋敷は細切れにされて売地になっている。それを買って小さな家を建てて窮屈に住んでいる移住者たちはキツネ顔の人が多いようだ、かなりの大金を支払うのだから賢く稼いだのだろう、タヌキのようにもさもさと溜め糞をしまっておくだけではこの郷に家は建たない。キツネ復活かな
犬が夢を見る、お前はペットなんて玩具扱いされているが俺は人間を食っていたんだぞ、ご先祖様のオオカミに叱咤されて犬は恐縮する。一念発起、ある日、潜在していたDNAが一斉に活発になり犬がオオカミに先祖返りする。性格も生活も変わり生肉しか食わない、星空の下で遠吠えする、人は危機を迎えるね。迷うことなく人を襲う、飼い主は積年の恨みを晴らされる、犬を猫可愛がりするなんて許せない。特に子どもには容赦ないさ「私のワンちゃん」は凶暴生物になる、夜間の外出は危険、登山者たちは銃の携帯が必要、狂犬病まで復活したら最悪だよ。
猫だって昔は化けて人の喉笛を食いちぎったらしいが、彼らは気紛れだからあまり危険はない。しかし元々は虎のDNAを持っているんだ。玄関にオオカミ、裏口に虎では家の中から出られないだろう。
オオカミ顔の男とオオカミ男は別だということを確認しておこう。月夜の晩に出くわさなければ怖くないのがオオカミ男さ。
体力気力がなくなった今は低山登山もきびしくなり里山散歩オンリーだ、昔は高い山に登ったものだがという口だけが達者だ。この季節は熱暑、ヤブ、草いきれ、なにより虫がいる。蚊虻蜂蜘蛛どれも恐ろしい。幸いヒルとダニは里山に顔を出さないが、この前、黒い蝶にひらひらと道案内されたのは気味悪かったよ。
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