五輪開会式だ、ここまでこぎつけた首相の手腕はたいしたものだよ。国民の安心安全と何十回も言って、感染拡大しても国民の外出は減っているとねじつけ、ワクチンが足りなくてもパフォーマンスだけの大規模接種を発表したりした。これがすべては五輪のため、安倍さんのレガシーなのだね、もっとも五輪中止なら即解散総選挙敗北だからね。

 このごろ見かけなくなった人が多い。皆が外に出なくなったからだが、何分高齢者だから亡くなった人もいるだろう。近所でよく自転車に乗っていた赤ら顔の老人も昨夏亡くなっていた、知らなかった。何しろ三密で葬式も変わったからね。通知もせず家族葬だ。
 祠をお祀りする人が無くなると神様も消失してしまうのかな。学童見守りの地域巡回を日課にしていた老人もいつのまにかいなくなった。山の中腹に小さな祠があって昔から地区の8軒が順番で赤飯や酒を供えていた。とうとう私一人になってしまいましたという話をしてくれた。
 懇意の老人が山を開いて子どもの遊べる小さな空き地を造ったから見に来いと言う。十本ばかりの木を伐り藪を払ってロープの梯子やブランコをつけている。
「こんなことが好きだからさ」
 日曜日には若い父親たちが手伝って、ついでに宴会をするのだという。ビールを持って行ってみた。ここに家を建てて移住してきた人たちだ。サーフィンや釣りだけでなくこんなこともできたと喜んでいる。
「山続きに小さな祠があるんだよ」
「見ました」
 答えた男は茶髪のカーマニアだ。
「お祀りしていた人が亡くなって、きっと神様は寂しがっているでしょう」
「ああいいな、僕たちが引き継ぎましょう、神様のお守りをします」
「氏神様ができるなんて素敵だな」
 海辺で暮らすというキャッチフレーズに引き寄せられただけだと思っていた。
 氏子の代替わりを祠の神様は喜んでくれるだろうか。お供物も赤飯は望めないし酒がビールになるかもしれない。熊野神社はサーフィンには縁がある。巡礼と修験の山道が海に終わりフダラク渡海の船出となる地が本社だから。
「お神輿なんかも造りたいな」
「お祭りってワクワクするよね」
「俺も子どもの頃は太鼓を叩いたよ」
 若い父親たちはビールで盛り上がっている。山だから梅雨があけると虫が出る、蝉はいいとしても蚊、蝿、ムカデもいるだろう、どう対策を取るのだろうか、そんなことは言わなかった。

 降れば大雨の梅雨だった。あちこちで河川の氾濫と崖崩れ。高速道路のインターは1ヶ月たつのに復旧しないし熱海では土砂崩れで20数人も亡くなった。土地の業者は産業廃棄物の捨場にしてそこを宅地造成して二重に儲けるつもりだったらしい。そんなヤクザな業者の計画を許可した役所も人には言えない理由があったのだろう。
 セミが鳴き始めた翌々日に気象庁が梅雨明け宣言したのは可笑しかったね、たぶん予報官はセミの声を聞いて宣言の安心安全を察したのだろうさ。

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