5つの小だってさ、外食する時の決め事だ。小人数で小一時間で終わらせる、小声、料理は小皿で出す、小まめに消毒。11月に言い始めたのだが感染が進んで時短要請に代わった。なにしろ総務省の役人が多人数で大声で深夜まで宴会をして皆がコロナに感染したのだから笑い草さ、それに小人数を少と訂正したのも言わずもがなだったね。

 おっ大正ロマンだと思ったよ、大きいリボンとカンカン帽、矢絣のはかまと妙にアレンジした和服のペアは異人なのかしら。
 杉浦日向子さんは江戸にタイムスリップしてマンガを描いたらしいが、大正のモボモガが江戸に憧れるとは思えない、当然近未来だろうが、うっかりタイムを間違えて戦時中なんかにスリップしてしまったら悲惨だな。今の時代なら違和感はなにもないよ、ましてマスクをしているのだから。
 すれ違った時に会話が聞こえた。昔風の言い方ではなかった、オレそうジャン的な今どき言葉だ、しかしタイムトラベラーはきちんと学習してくるのだ、習慣も会話も同時代人に変に思われないための用心をする。もしコロナに感染してウィルスを持ち帰ったらどうなるのか、あの頃は、そうだスペイン風邪が流行っていたな、それならコロナと大差ないから大正の人々も対応できるだろう。
 観光客の中にはタイムトラベラーが少なからず混ざっていてもおかしくない。特に中国では科学の進歩で4千年の魔法を解明し、この春節に過去未来を見て回る観光客を送り出しているのだろう。
 二人はキョロキョロと町を眺めながら行ってしまった。たぶんどこかで消えてしまったのかもしれない。相変わらず閉鎖的で世界で遅れたままの日本の文化に優越を感じているのだろう。

 どの家も窓を閉ざして人の気配がない。空は冷たい風のせいで澄んでいる、丹沢も伊豆の山々も強い線で輪郭を描いているのに富士山だけは厚く重い雲に覆われている。すぐに一瞬の夕焼けとなるのだが肌寒くなって家に帰る。砂地の廃屋の主は猫だ。様々の意匠に身を飾った猫が次々に行く人を見送り鋭く睨みつける。


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