ついに中国がゼロコロナ政策を諦めた。地区も建物も都市を丸ごと封鎖して毎日PCR検査をする。しかし、ろくに食糧を配給しないから耐えかねて人民は白紙を掲げてデモをした、世界中がそれを報道したんだ。習近平がやむなく受け入れたのは自分が無事に再任された後だったよ。とたんに膨大な死者が出た、昨日まではゼロと言っていたのにさ。

    呼び鈴が鳴った宅配らしい、急いで玄関に行く、近頃は押印を求めないので双方の手間がはぶける。
「あっリンゴだ」
 こっちは喜んでも向こうは腹立たしいだろう、何しろ重いからね。しかし、いくら軽いからといって骨壷なんて書かれていたら気が滅入るだろう、運んできた自分は死神かって、話の種にはなるだろうがね。
 なんやかやと沢山の人が町に出て家々を巡っている。
ちらしを入れるアルバイトは空き家でもかまわずポストにつっこんでいく。少しの収入と体力増強・健康維持の一石二鳥さ、しかし右から左とゴミにされるから片方の鳥はチリトリだ。
    郵便配達の憂鬱ってのを考えてしまう。表札の名前で世代が判るから郵便が途絶えれば心配だし請求書が山のようにくればつい認知症を疑ってしまうだろう。ラブレターを届けるという微笑ましさはとっくに消滅しただろうが不倫の連絡を手紙でするのが便利だそうだ、社名入りの封筒なんか使ってさ、スマホに記録が残らないからさ。
 新聞配達も昔は苦学生と決まっていたが、今は全国の、いや世界の人たちだ。販売店が寮を持っていてそこに一人暮らし、なにか物語を持つ人ばかりだろう。この地区を配達するのは色の黒いずんぐりした娘、早暁に地球儀のどこかのエキゾチックな曲を歌いながら、故郷をしのぶ心情を思うと少し胸が痛くなる、日本の風が冷たいだろうね。イスラムの朝の祈りアザーンも唱えてくれないかな。

 山茶花が清々しい、白も赤も満開だ、椿と違ってスッピンの肌の輝きのようだ。歌謡曲は残酷だ山茶花の宿は不倫の歌だ、こんなに清楚な花なのにね。だから一輪を指で摘んでというのは罪作りだ。

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