韓国の梨泰院で若い人が150人も死んだ。ハロウィーンの群集が狭い道で押し潰されたのだという。3年ぶりのお祭りで舞い上がった(ぎっしり詰まった人ごみは軽くなかった)のが原因だ。これだってコロナの後遺症だといえるよ。ついにワクチン接種が5回目になった。

    散歩していたらギャギャアと嫌な声が聞こえた、台湾リスだ。アライグマとハクビシンと台湾リスが害獣登録されている。オオカミもキツネも姿を消してしまった今、タヌキはずいぶんがんばっていると褒めてあげたいな。今でも時折は化けているのかな。
 薄暗い細道で知り合いに出会ったよ。何度か居酒屋で駄弁をふるった仲だ。
「こんにちは、久しぶりです、おや少し太られましたね」
「コロナのせいですよ、食っちゃ呑みです」
 実はこういうのが怪しいんだ。脳の記憶部位に働きかけて幻像をつくりだして一人芝居をさせる、これがタヌキの戦術さ。
「いやコロナもだいぶ下火になりました」
「一杯やりますか」
「いいですね」
 これ全部が独り言さ、記憶に残っている場面を再現させているだけなんだ。
「遠くは面倒だから近場にしましょう。この前、通りかかって覗いたんですよ。あそこの路地に開店した、ほら焼けた駅前の居酒屋にそっくりな構えだ」
「おう、モツ煮のうまかった所」
「案内しますよ、こっちです」
 寺の坂道を上るとミニチュアのような新しい家が並んでいて窓から青白いテレビの画面が映っている。
 ふと眩暈がしてフラッとするのを支えてくれた、その時にくるっと一回りしたようだ、まだ視線が揺れている。気がつくと目の前の家に居酒屋の看板、今まで何度も通ったのに気づかなかった。
「いらっしゃい」
「友だちを連れてきましたよ」
「どうぞ奥に、お酒ですね」
「まずモツ煮を、あとはお任せで」
 薄暗くて温かくてぼんやりする、ちょうど巣穴にいるような気分だ。だが、この妙な匂いはなんだろう。尿意を催した。
「トイレ借りていいですか」
 気づくと公園のベンチに座っている。あわてて考える、ビールは呑んでいない、何も食べていない、それですっかり安心した。昔は馬の小便だったが今はなんだろうね。モツ煮も食べていない、たぶん材料はおぞましいものだろうよ。
 タヌキは生き残りのためにこんな技を使っているんだ。でも知り合いと会った気分は楽しかったし温かい気持ちがまだ残っている。コロナで閉塞感の中にいる時代にはたいへん有難いことさ。

    朝夕、寒さが迫ってくるのに日中はホカホカしている。隣家がくれた柿を干している、オレンジ色が温かい。今年は生り年だそうだが素人の柿は種が多くて厄介だ。いずれ玄人の種無し柿を買って気持ちよく食べよう。

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