参院選たけなわ、ウクライナニュースがかすんでしまった最中、安倍元首相が殺された。それでマスコミは一気に勢いづいた。ただしテロではなく怨恨、母が新興宗教にはまって破産し一家離散したその恨みだという、つまりただの事件だね。元自衛官とか手製の銃とかマスコミが付加価値をつけたり、御用評論家や外国首脳が業績を讃えたりするから変な雰囲気になり国葬だと。これでモリカケとか桜の会とかのスキャンダルは全部もみ消しさ。コロナが増え始めた、それは事件とは無関係だよ。
釣り名人と寿司屋の親方がたまたま水族館で会った。あの魚はどこでたくさん釣れる、仕掛けはこう当りはこう。あれはこう捌くのさ酢でしめる、握りは軽くとかおおいに話が弾み二人は満足した。魚はじっと聞いていてさぞこそばゆかったろうね。
誰にも他人の口出しを許さない分野があって修練した技を認めあわないとね。
身のこなしが美しいのはなんといってもバレエの先生だ。スーパーのレジでさっとカードを出しレシートを受け取り商品を袋に納めて立ち去る、少しの無駄もない動きには魅了されるよ。レジ係はパートの茶道の師匠さ。バーコードを読み取らせ凸凹硬軟様々な品物をピタリとかごに収め寸分の隙がない。その間中、二人とも背筋を伸ばして少しも姿勢を変えない、修練というのはすごいものだよ。お客がもたもたして無様な動きをするのを心の中で笑っているのかな。
お巡りさんは日常でも防犯の目配りをしていて空き巣に入られそうな家に舌打ちする。泥棒も同じだがこちらは舌なめずりだ、仕草と目付きが同じだから間違われることも多いだろうが、これも修練のたまものさ。
彫刻家が丸太を指差した。ああ、この木が私に語りかける、あなた彫り出してくださいと、持ち帰ってノミを当ててくれれば服をぬぐように私は自分から変身します。彫刻家は思う、これは仏像にはならない、この美しいフォルムは女性だ、私にはそう見える。木は煩悶するだろうね。正気でそう感じるのがプロなのさ。
幽霊とか魔物とかいうのも永い修練をつんでいるから演技に少しのスキもない。褒めてやりたいくらいだがあまり会いたくはないや。ところが彼らに会いたがっている人間がいる、霊感があるとか怪奇現象が見えるとかを自慢したいんだ。しかし幽霊も魔物も彼らをバカにしているから決して現れようとしない。スピリチュアルのまがい物はたくさんあるからね。
カワセミが川に垂れた枝に止まって物思いにふけるように水面を見つめている。大きなコイがゆったりと泳いでいく。白いサギはそっと足を折り曲げながら流れにさからって歩いていく。一瞬、鮮やかな青い影がひらめいて水面をたたき、クチバシには白く光る小魚が身をよじらせている。カワセミの昼食だ。すぐに枝にもどって動きを消して自分を隠してしまった。小さな弱い者の生き方だ。
ふと目を上げると奥深い青空に鷹が浮かんでいた。地の一点を見つめながらほんの少しだけ翼を動かして同じ所に留まっている。
次へ