1日で594人感染、アメリカなんか6万人だ。予定では五輪開会式だったが大雨さ、決行しなくてよかったよ。GOTOトラベルが始まった。あわてた仕事だからミスばかり、受け入れ宿泊施設一覧表もホテルや旅館名でなく会社名なんだ、聞いたことのない名前だからどこなのか全然分からない。しかし観光地は希望の光が差したと思っている、休めば収入ゼロ、たとえ続けても客が来なければ同じくゼロだから、特に中国人をあてにしていたホテルは壊滅状態さ。
散歩の途中で前のカップルに追いついた。あれ背中に何かが、大きなカマキリだ、女が気づいて言う。
「虫がついているよ」
「払ってくれよ、なに怖いって、さっきオマールエビを平気で食べただろ、いいよ俺が殺しちまうさ」
手を振り回すとカマキリはさっさと飛んでいった。
「カマキリって飛ぶの遅いね」
華やかなデザインのTシャツの娘が笑ってじっと男の顔を見た。
男はちょっと偉そうに肩を揺すった。
カマキリは交尾相手の雄を食べ尽くす。産卵の前に体力をつけるため、または餌を捕るのが面倒なため、または用無しの雄が亭主面してノソノソするのが目障りになるからか。
女は手を伸ばして男の腰を抱き肉づきを確かめるように指で突っついた。男をじっと見る目が肉欲的だ、食欲かもしれない。食われる方は歓喜の表情、二人はいい仲だ。
昆虫は羽をすごいスピードで上下させて空を飛ぶ。羽を振動させるために胸が共鳴箱になっているらしい。それでセミは鳴き蚊はブーンと所在を明らかにしてしまう。
無口な男とおしゃべりな女、またはその逆のカップルは相性がいい。無口同士、おしゃべり同士だといずれ破局がくる…かもしれない。パートナーというのはボルトとナットの仕組みなのだからさ。
あのカマキリは雌だったろう、うまそうな雄に飛びついたのだ、食ってやろう。しかし彼女が嘲笑した、もう遅いよ私の獲物さ、お前は飛ぶのが遅いよと。知ってて食われるのがいい仲なんだよ、不味ければ吐き出される、食われる前に逃げ出せば不実な奴とののしられる。カマキリに人生を学ぶのもいいことだろう。
ハマユウが咲いていた。心乱れるといわんばかりの咲きぶりだ。葉がしっかりと丈夫そうなのに繊細な花は狂乱する、そんな物語を思ってしまう。道成寺かな、赤ければ八百屋お七なんだけれど…わかんねェだろうナ。
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