新感染者が2382人だ、若い人が増えてきたと危機感が生まれている。鬼滅の刃というアニメが大流行さ、映画館は一日中何回も満席で客が列をつくった、もっとも三密回避の影響で人間の役者が出演する映画はほとんど製作されていないからね。立皇嗣の礼というのも行われた、大変な時期に秋篠宮さんは皇太子になったものだ、コロナではないよ家庭の事情さ。長女が見るからにちゃらい「元海の王子」という男にのぼせてしまって駆け落ちまで計画したという、普通にはよくある話だがね。イギリスでも皇太子の弟がアフリカ系アメリカ人女優と結婚して王室離脱するという騒ぎだ。これもコロナの影響ではないからね。
散歩コースの一つに城跡の搦め手側の谷戸がある。鎌倉時代のものだから館跡というべきだろう、背後が高さが10メートルばかりの石灰岩の崖になっているので馬で攻めることができない、当時は十分な防備だったのだろう。ところが戦争中(それは太平洋戦争だ)谷戸に海軍倉庫を作るために立派な排水路と車の通る道ができた。前は何かの施設だったのだろう、今は草っ原に蜂飼いが小屋を作り巣箱を並べている。しかし一度も人に会ったことはない。
どの木にもツルがからみついている。枯木のツルは枯れているが葉をつけた木のツルは葉を伸ばしている。葛が多いが藤もある、とくに山の斜面には季節になれば透明感のある花が美しく咲く。
ところがツルの方は少しも優しげでない。太い胴体が地中から渦巻いて木の幹から梢までを締め上げている。鱗こそないが大蛇そのものさ。このあたりの地中には数知れない蛇がいて穴から首を出して巻きついてくるようだ、うっかり立ち止まると巻きつかれそうな気分になる。
もしかするとここの地面の底は地獄になっているのかもしれない。灼熱にもだえて逃れようとする亡者は蛇の姿になって地上に首を延ばすのさ。巻きつかれた木は力の限り攻防するがやがて枯れていく。人も同じだ。
誰が倉庫を作ったのだろうか、徴用された人たちだろう、風雨の吹き込む小屋と乏しい食べ物で過酷な工事をさせられた、地上にも地獄があったことを思わせるんだ、つい80年前のことだ。800年前の鎌倉の人だって地獄を見ただろう、この館も戦いに負け焼き尽くされたのだから。
明るい日差しの中に蛇の木が並んでいる。昔の中国は周辺地域の人々を怪物の姿に描いた。キリスト教でも異郷には一本足、胸に穴のある、首なし、手が四本、大男小人などのモンスターいると想像して絵を残した。聖アウグスティヌスはたとえ怪物でもアダムの末なのだと布教を進めた。改宗すれば救われ拒否すると討伐されたのだろう。
この谷戸には救いの手が及んだとは思えないけれど今は静かだよ。おおんおおんと耳に鳴り響いているような静けさだ、木々が大きく延びて空をおおいかくしていく、たちくらみのようだね。じっと辺りをうかがったが怪物は現れなかった。帰り道では後ろを振り向かないようにしたよ。雑木林に蒼ざめた小さな女の子が立っていて上目づかいにこちらを見送っりチロっと舌を出す姿でも見てしまったら大変だからね。
鳥たちは早く枝に帰ってしまった。すぐに白かった空にくもりがさしてきた。北のほうから黒い影が広がってきて、あっというまに空半分をおおってしまった。時雨なら明るい空からパラパラ降るものだがこんな雲は剣呑だ。北海道は凍りついている日本海側は白く覆いつくされている、それをしみじみ思いなさいと天から声があったよ。
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