ワクチン開発競争が最終ラウンドに入った。アストラゼネカが最先端だったがちょっとつまずいた、副作用が出たのだ。
飛行機に乗ろうとした男がマスクをしない、理由は鼻がかぶれるから、それで搭乗を拒否された。イグノーベル賞に日本がまた選ばれた、ワニもヘリウムガスを吸うと変な声になるという研究、オレオレ詐欺もヘリウムガスを使っているのかね。マスコミは読者に笑えるネタを提供しようとがんばっている。
また店ができた、以前は何だったか覚えていない、できてはつぶれるからさ。店いっぱいに花が飾ってあるので花屋かと思ったらビーズのガラス瓶が並んでいる、店主の趣味で開いた雑貨屋なのだろう。
町には花屋は一軒、前は八百屋だったが代替わりしてその娘が花屋を始めた、四半世紀前だ。きっと次に代替わりすれば園芸店になるだろうよ。四半世紀前に娘だった人はほとんど外に出ない、いつも薄暗い店の奥から道を眺めている、客もめったに来ない。以前に一度、贈り物の花束を頼んだら、いとおしむように見間違えだったらケチケチと束ねて手渡ししてくれた。花までがしおれたようだった。
花の命は数日間、後はゴミになる、残酷だね。古くなった野菜は一山幾らで特売できるが花はきれいごとだから安売りはできない。その娘だった人も縁談とか結婚のうわさがなかった、毎日しおれていく花に囲まれて物思いを続けてきたのだろう。捨てる前に花びらをむしりとって、美しいのは私それとも花と呪文をかけつづけて老いてきた。たぶん花屋は花の精の祝福を受けないだろう、切り取られ枯れていく花の恨み、数え切れない花びらをゴミにした罰、種を宿す未来を喪失させた呪い。そんな悪意と無惨な運命が渦巻いて道にあふれ出している。華やかな装いと香りに満ちた花屋の奥を覗くのは怖いものだ。
この辺りの旧家は敷地がゆったりしているので相続の時が大変だ、一軒を更地にすると数軒の家が建つ、誰かがつまんで持ってきたような規格通りのうすっぺらな建物さ。不思議なことに前にあった家はすぐに忘れてしまう。しかし猫は覚えている、まるで検分するように歩いてくる。私を見定めてフンという顔をして生垣の中にもぐっていった。
次へ