モーリシャス島で日本の貨物船が座礁し大量のオイルを流した。インド人船員たちが自宅にスマホを入れたくて陸に接近しすぎたのだそうだ。コロナで寄航できない、まったく同情する。ただ環境大臣がのこのこ視察に行ったが謝罪も支援も明言しないんだ、恥ずかしかったよ、被害者に寄り添えないんだから苦労なしめ。コロナは世界を侵略中、死者が莫大だ。夏になれば暑さでウィルスが消滅するなんて能天気なことを言った人は今どこにいるのかね。詰問しても小賢しい言い訳をするだろうけど。 

 また一軒古家が解体された。いつもガラス戸の中に座っていたお爺さんはどこへ移されたのだろう。授業で戦争体験を話してくれる人が減っていくと先生が嘆いているそうだ、しかし戦争の本当の悲惨なところなど子どもに話せるものか。認知症ですべてを忘れることができたら、それは神の許しだと思うよ。 
 ずっと以前に知り合った老人は帝国陸軍の機関銃手だった。ある日、待ち伏せして草原を進んでくる敵兵をパラパラとなぎ倒した、命令だからやむをえない。しかし老人はその時、爽快感を覚えたそうだ、思わず鼻歌がもれるような愉快、だから自分は地獄に落ちるだろう、自業自得だとつぶやいたのが耳に残る。アクション映画は残虐行為を賞賛して大人も子どもも楽しませる。清潔で快適な映画館には血と泥と腐敗の悪臭はない、ヒーローは超人だから自分の行為に少しも揺るがず一切の疑問を持たない。しかし生身の人間なら戦場で自分の精神力を崩壊させてしまうだろう。 
 古家の老人は戦争にどう関わったのだろうか、戦犯だったかもしれない。軍の命令と進駐軍の裁き、理不尽な思いを封印して平穏な顔をしていた…のかもしれない。戦場のおぞましい行為、戦後の非人間な毎日、そんな悪夢に夜毎うなされ大声をあげてとびおきる。これを子どもに話せるかい。本人にはもはや整理できないことを神が救ってくれる、それが認知症だと思うのだ。 

 今年もセミが出ている、アブラゼミからヒグラシ、ツクツクボーシへと代わっていく。6年間の土の中の暮らしは安楽だったろう。が人間には苦痛だ。不要不急の外出は自粛せよといっている役人がもし言動一致の人ならば、その家族は耐えられないだろうね、同情するよ。せめてもの嫌味だよ。海には人っ気がない。 

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