連休明けからPCR検査を36万人が受けて17800人の陽性が判明した、5パーセントだね。空港では7万人が受けて300人、これも同じくらいだ。国民1億人なら500万人になるのにね。
アメリカ238万人、ブラジル119万人、中国8万人…本当かいな。
陽性者に接触すると通報してくれるCOCOAというアプリを政府がおおいに推奨している。あとになって分かったのだが欠陥だらけで何の役にも立っていなかったそうだ。拙速は仕方ないがアベノマスク同様、誰かがつけこんで儲けている。企業なら担当者はクビ、損失を弁償させられるだろうね。
路地の入り口にカラオケ教室と小さな看板、地味でいじけた文字だ。以前はピアノ教室だったが少子高齢化だから仕方ない。
コンニチハと入ってみよう。正面に画像が掲げられている。芸能の神様マダラ神ですと奥から出てきた作務衣の老人が教えてくれた。まわりには踊る童子たち、小憎らしい顔をしているから本当は爺婆なのかもしれない。童心に返って楽しみましょうと老人がニコリと笑う、艶々した端正な顔が不気味だ。
「踊り手が持っているのは何ですか」
「笹と茗荷の葉、茗荷は冥加一心一念 笹は三千三観」
よく分らないが老人に従って奥へ入る。
カセットがカチャと鳴って呪文が響いた。
摩多羅神は神かとよ 歩みをはこぶ皆人の 願いをみてぬことぞなかりき シツシリシニ シツシリシサ サラサニサ サラサト
「マダラ神の神語です。入門されたら一緒に唱えましょう。芸能成就疑いなし」
老人はそう言って壁の写真を見回した。昭和歌謡祭に出てくる歌手がずらりと微笑んでいる。
「彼ら彼女らは熱心に神語を唱えたおかげで今なお舞台に立っています。あなたは来るのが少し遅かった、50年前なら名を知られた歌手になっていたことでしょう」
すっかり腰が引けた。
「名を求め富を求めるならマダラ神に帰依しなさい。歌って踊って幸福をつかみましょう。ところであなたはどの流れに属しておりますや」
どうやらレパートリーを聞いているらしい。
「八代亜紀さんならだいぶ歌いましたが」
「それは駄目だ、彼女はまだ現役です。亡くなった方の歌がいい、恍惚世界に入り込んだ方でもいい、その死霊または生霊に憑依してもらうのです、マダラ神のお導きで」
怖い怖い、老人の目が吊りあがってきた、喉がヒクヒク動いている、背丈がずっと伸びてきたようだ。
「シツシリシニ シツシリシサ サラサニサ サラサト」
まるで洗脳だ。
こんなことを予感したから玄関は開けなかったのさ。だから中は森閑としたままだ。この路地にも近づかないことにしよう。
ドクダミの花がようやく終わりかけた、なかなかしぶとく咲き続ける。きれいな花だよ名が悪いだけだ、薬になり茶になりテンプラになる素直でしっかりした草だ、群生している姿はまるでフェアリーリンク、妖精が踊っていそうだよ。雑草などとひとくくりにするけれど、どれも個性と名のある花なんだから。
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