バッハ会長が五輪を一年遅れにすると宣言した。IOCは営利団体なんだってさ、だから開催して営業しなければ組織が成り立たない、なんとなくボランティアなのかと思っていたよ。
前日の感染者は2122人だ。いまだに政府はハンカチで口を押さえましょう、手を洗いましょうなどと言っている。卒業式も入学式も中止したり縮小したりした。企業も入社式をやめたよ。

 ずっと見回したらこの町にはエスカレーターやエレベーターのある店は一軒もなかった、田舎には立派なコンプレックスがあるのに都市周辺の小さな町はそうなんだ。だからないはずのエレベーターに乗ったという怪異も起きるだろう。
 町の周囲の山の上に開発した新興住宅地はかなり急な坂を上り下りする。若いうちや車に乗れるうちはよかった、良い景色ときれいな空気を楽しめたから。免許を返納し足腰も衰えた高齢者が大根やティッシュをぶらさげて帰るのは苦行だし坂道で転んで倒れる人もいる。
行きも危ないが帰りは怖い、雨風、夜には出歩かなくても転がったリンゴを追って自分が転がってしまうこともあるのさ。エレベーターがあると便利だ、現代人は楽なことを望む、念願かなって垂直の崖にエレベーターがつく、はずはないのさ。
 前に立つとセンサーが作動してすぐに扉が開く、中に入るとあっというまに閉じる。もたもたしているとランプが点滅する、地上9階地下は3階まで、あわててボタンを押そうとするのだがその前にエレベーターは動いてしまう、もちろん地下は地獄、最上階は神仏とともに暮らす天国だ。かくして魂は旅立ち体は残される。発見者は叫ぶんだ、あっ大丈夫ですか、119番へ連絡すれば体だけ救急車で運ばれる。警察は目撃者に事情聴取する、幸せそうな笑みを浮かべていました、苦しそうな恐ろしい顔でした、そんなことはどうでもいいです転んだところを見ましたか、車とか自転車が走っていませんでしたか、つまり事件ですか事故ですか。
 子どもだって興味をひかれてエレベーターの前に立つかもしれない。あっ、これ故障しているよ、ドアが開かない、それはハッピーだ、死ぬには早いということさ。少子高齢が進んでいる、神様がこんな企画をしてくれたのだろう、結果は思し召しの通りさ。

 スミレの季節だな、ずいぶん前から陽だまりにひっそり咲いていたが、白、ピンク、赤の花々が一斉に咲いてくるといよいよひっそりと隠れてしまう。すぐに黄色のタンポポがどしどし領地を広げて春は盛春に移ってしまうのだ。三色スミレではないよ、昔ながらの菫草、なにやらゆかし、山路来てだよ。

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