新規感染者が214人になった。突然、驚きの通達が出されたよ、学校も保育園も5月一杯まで休みにするという安部首相もとうとうヤキが回ったと思ったね。しかしサクラとかモリカケとか厄介な問題を抱えているので、国民の関心を外すための狡猾なねらいだとも思った。政治家は腹黒いからさ。
コロナという言葉が一般名詞になってしまったよ。小田原のコロナワールドや温水器のコロナ社は困惑したろう、近くにも大きなコロナという看板がある、もちろん商品名だが何となく早足で前を通り過ぎるようになった。
3時を過ぎていた、散歩の帰り道さ、二人の娘が海に向かう細道を歩いてくる。同じような薄いピンクのコートを着て同じ背格好、もちろんマスクを外せば違う顔が現れるのだけど。先の娘の視線はきつくて後の方は少しとまどっているように見えたね。
バス通りを歩いていくと今度は海から上ってきた二人娘に会った、みな同じような服だからさっきの二人連れだとは限らないが鋭い目は記憶に残っている。
3度目にまた会った、もっと先のバス停の近くだが今度は同じ娘たちだと断言できる。
「すみません、○○っていうケーキ屋さんに行きたいのですけれど」
後ろの娘が聞いてきた、前の娘は余計なことをするというように鋭い目で睨んでいる。知っている店だがここからは遠い。海岸橋、海岸中央、海水浴場入口と3つのバス停がある、それぞれ歩けば7、8分くらいの距離がある。
「バスに乗ろう」
「歩いていく!次のバスまでは15分も待つのよ、あんたがグズグズするからよ」
二人が言い争うので仕方なくなだめた。
「同じような名前だから無理はないよ。海岸中央から海水浴場入り口までは登り道だけれど景色はいい。ただ崖が高くて注意しないと、前に歩道の端からすべって落ちた人がいるからさ」
一昨年だったか怪我をした観光客がいる、フェンスに不備があったのさ
「さあ行こう」
前の娘が決然と言った、何か殺気らしいものを感じてたじろいだよ。
親友のように見えても女二人の友情はなかなか難しい、片方が強いと一方は保護される立場を選ぶ、そんな相手を可愛いいと思ううちはいいが、ぶりっ子ぶりがやがて鼻につき鬱陶しくなる、ペットとは違うのだからさ。突然の破局は無邪気な一言だ。男の子の話、着るもの食べるものの好み、それが衝動的に殺意をもたらすというやつだ。それが根深くなっていくと、ついには殺す方法を考えるのが楽しみになり殺害場面が映像にまで浮かんでくるんだ。
雨上がりの細い坂道、絶景の景色に気を奪われている、浮き石とか水溜りでちょっとよろける、待っていたように背を押す、波の轟き、風にはためくピンクのコート、絶叫。娘は向こうから来た自転車の若者に軽く声をかける。
「友だちと会いませんでしたか」
「誰も見ませんでしたよ」
「はぐれたのかな、ありがとう」
自転車のずっと後ろからバスが来たのを見ていた娘はさりげなく乗り込むと自転車を追い越して2つ先のバス停で下りる。帽子を隠してコートを脱いで自転車と行き会う。
「友だちと会いませんでしたか」
「ずっと先で会いましたよ」
「あの娘ったらさっさと行ってしまうから、スマホにも出ないんです、予約したお店をとっくに通り過ぎてしまって、困ったな」
「では僕がひとっ走りしてみましょうか。なんという名前ですか」
アリバイ成立だ、親切な若者が証言する。
やはり気になって翌朝の新聞を見たが事故の記事はなかったよ。思いとどまったのか失敗したのか、次の機会をねらっているのかもしれないな。
豪雨と強風に強圧シャワーを浴びたように山がきれいになった。木々の幹と枝が真っ白になり雪のようだ。へばりついたような汚れも洗い流された。春を迎えるために山の衣替え、白い下着になったようだ。これから花で飾り、鮮やかな新緑の衣装を身に着ける。川の娘の洗濯日というフレーズを思い出す。
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